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第2回「放射線健康リスク管理福島国際学術会議」の報告

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 東日本大震災、そして東電福島第一原発事故から2年を経て、今なお多くの困難の中で避難生活を余儀なくされている方々に、心よりお見舞い申し上げます。
 福島県では、さまざまな復興・再生への取組みが行われています。その一環として、今年2月25日~27日、福島市にて第二回「放射線健康リスク管理福島国際学術会議」が以下の通り開催されました。

  1. ■主催:福島県立医科大学
  2.  共催:福島県ならびに日本学術会議臨床医学分科会「放射線防護・リスクコミュニュケーション」委員会
  3. ■参加者数:一日平均155名
  4. ■参加者の所属機関:国際原子力委員会(IAEA)、世界保健機関(WHO)、国連科学委員会(UNSCEAR)、経済協力開発機構・放射線緊急時医療準備支援ネットワーク(OECD/NEA)、国際放射線防護委員会(ICRP)、米国放射線防護対策委員会(NCRP)
  5. ■参加者の国籍:9カ国(アルゼンチン、ベラルーシ、フランス、ドイツ、日本、ロシア、イギリス、ウクライナ、アメリカ)

 ご参考までに第1回目の会議は、原発事故から半年後、まだ県民健康管理調査事業が実施される以前に、同様のメンバーがいち早く福島県立医科大学に参集し、日本財団の主催により行われました。1)
 第2回目となる今回、具体的な県民健康管理調査事業2)の進捗状況と諸課題が発表されました。同時に、放射線リスクに関して以下のような活発な議論が展開され、貴重なコメントも得られました。三日間の会議の内容は、英語で「U-stream」でLIVE中継されました。
 会議の要旨をまとめた英語版の資料は順次、福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センターのホームページにアップされる予定ですが3)、ここでは簡単にその概要をご紹介したいと思います。

 まず初日は、福島県における震災後の緊急被ばく医療のあり方が報告されました。その中で特に、被ばく医療に関する知識不足、準備不足への反省から、人材の育成や放射線教育の重要性が指摘されました。
 県民健康管理調査事業については、この2月に行われた第10回検討委員会の報告内容をベースに、それぞれ4つの詳細調査(甲状腺検査、健康診査、妊産婦調査、こころのケア・生活習慣に関する調査)のデータ解析の一部が報告されました。それを受けて活発な議論がなされ、「短期間でこれだけの大規模な系統的調査が出来た事は素晴らしい」「各種検査の精度管理が優れている」など、国際的な評価を受けました。
 さらに、国内の関係機関や各大学から体系的な福島支援プロジェクトが報告され、現状の課題と、あらゆる面での教育の重要性が再認識されました。

 二日目の基調講演では、ICRPより、従来の準備対策を凌駕した原発事故による甚大な精神心理的・社会的影響の有り様と、その解決策が提示されました。その後、IAEA、WHO、UNSCEAR、ICRPより、国際社会における緊急被ばく医療に対する体制整備の状況や組織機構の説明、さらに福島の事故対応についても報告されました。いずれの国際機関も福島とのさらなる連携を求めていますが、福島側の受入体制や組織づくりの強化が、これからの課題となります。
 さらに、チェルノブイリ原発事故からの経験と知見に関して、ベラルーシ、ロシア、ウクライナからの各代表者より、それぞれ甲状腺、疫学・統計、発がんと健康状況について、以下のような内容が報告されました。
 事故後25年以上が経過し、放射線被ばくを原因とする周辺住民の疾患については、小児甲状腺がんの増加(乳幼児期~小児期の被ばく)が挙げられます。これは、事故直後に汚染されたミルク等の食べ物を日々慢性的に摂取したことで、放射性ヨウ素による内部被曝が引き起こしたものです。

 一方、甲状腺がん全体の頻度の年次別推移も事故後に増加していますが、これは現在では、スクリーニング効果(症状の無い時期から、超音波診断機器を利用した甲状腺検診を行うことで、通常では見逃されている異常所見まで、早期に、多く発見できる効果)によるところが大きいようです。
 また、ウクライナでの疾患の有病率が今なお高いことについては、放射線被ばくの直接的な影響ではなく、長期にわたる精神心理・社会的影響が引き起こす二次的な健康影響や生活習慣病に基づいていることが報告されました。
 そして、ドイツ、ロシア、英国、フランス、米国からの核医学や放射線防護、線量評価の専門家からは、チェルノブイリの事故と福島の事故の以下のような違いが紹介されました。
 チェルノブイリ周辺の住民の場合は、外部被ばくの影響よりも、前述の通り内部被ばくの線量が高いのが特徴です。対して福島では、事故直後から避難指示や食の安全管理等が徹底され、外部ならびに内部被ばくはいずれも極めて低く抑えられています。
 特に、線量の違いによる健康への影響については、放射線起因性(100mSv以上の放射線による発がんリスクの増加)への対処だけではなく、より「公衆衛生的」な対応の必要性が議論されました。すなわち、がんによる死亡率を減少させ、"長寿県福島"を目指すためには、放射線によるリスクに限らず、精神心理・社会的影響も含めた今後の発がんリスク全般を低減・阻止することが必要であるという考えです。
 事実、スリーマイル原発事故やチェルノブイリ原発事故後の精神心理的影響の調査に携わった専門家からは、科学者(医療関係者)ではない一般住民の視点からのアプローチが長きに渡り必要となること、そして、科学者と一般住民が共に歩むという共同事業が復興や再生のために不可欠であることが指摘されました。この点では、福島の現場ですでにダイアローグセミナー(対話集会)を地道に継続して定期開催しているICRPは、科学や技術や知識のみならず、現場体験を重視して地域住民と共に歩む道を進み始めていると言えます。

 最終日の基調講演では、「科学(者)社会の責任」というテーマで、原爆被爆者医療、チェルノブイリ医療支援協力、そして福島での事故対応における課題と対策が時系列的に紹介されました。その上で、科学的知見に基づいた放射線リスク対策の重要性が確認されました。放射線リスクに関するセッションでは、医師の役割の重要性、情報の正確さと信頼性の確保に加え、「医療被ばく」「放射線リスクと防護」に関する医師の知識レベルを向上させるための医学教育が、世界的な課題であることも共有されました。
 昨今、リスク・コミュニュケーションの考え方は、個々の患者や地域住民への対応のみならず、広くさまざまな社会リスクへの活用が望まれています。この日はNCRPの代表者から、リスク分析・評価、リスク管理といったリスク・コミュニュケーションの重要性があらためて報告されました。
 今後も福島の実情に沿った、科学的な放射線のリスク評価が不可欠となります。また、今回の福島の事故発生の翌月から継続しているこの「専門家グループからのコメント」自体も、そうしたリスク・コミュニケーションの大切な一環として、さらに分かり易い記述を心がけていきたいと思っております。
 以上の発表と議論を踏まえて、チェルノブイリ原発事故の教訓、国際機関の知見、国内の放射線影響研究のノウハウを活かし、福島における健康の見守り事業への継続的な支援、協力を行っていくことが確認されました。
 今後は、推計に頼らざるを得なかった過去の被ばく線量評価のみならず、実測による線量評価を指標とした包括的な個人被ばく線量の低減、そして放射線による健康リスクの評価が、前向きに推進される必要があります。特に、極めて低い健康リスクへの真摯な対応(リスク・コミュニュケーション)、精神心理的影響の長期化傾向とそれに伴う二次健康影響(肥満、高血圧等の慢性生活習慣病、アルコール中毒、睡眠障害、うつ病)への対処、さらに社会的な悪影響(風評被害、差別・偏見、地域コミュニュティーの崩壊など)への具体的な対応も含めて、生活の基盤である地域医療の強化と充実が求められることになります。


引用先

  1. 1) http://iopscience.iop.org/0952-4746/32/1
  2. 2) https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-kenkocyosa-gaiyo.html
  3. 3) http://www.fmu.ac.jp/radiationhealth/


山下俊一
福島県立医科大学副学長、長崎大学理事・副学長(福島復興支援担当)

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