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放射線教育
~反省を糧に、さらなる拡充へ~

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 東京電力福島第一原発事故に関する課題のひとつとして、「放射線に関する教育が不十分だった」ことが挙げられています。
 ここではその実情と、課題を乗り越えるための具体的な取組みをご紹介したいと思います。

医療従事者たちへの放射線教育

  まず検証すべきは、医師、看護師など、医療従事者たちへの教育です。医療従事者の中でも、診療で放射線を扱う医師、歯科医師については、学生時代に放射線に関する一定の教育をきちんと受けています。とはいっても、決して慢心できる状況ではありませんでした。エックス線CTやMRIなどの画像診断、がん治療など、放射線診断・治療の技術がどんどん発展するにつれ、医学生が勉強すべき内容もどんどん増え、その結果、「放射線による健康影響」については、授業枠が十分取れていなかったのです。
  放射線影響や放射線防護の研究および若手研究者の養成をしている放射線基礎医学講座の数も、この分野の研究者を目指す人材が減り、減少傾向にありました。その結果、一般の医学生向けには、必ずしも専門ではない教員が講義を担当することもありました。
  また、看護師の授業においても、「放射線医学」に関する教育は不十分でした。放射線診断・治療に関しては、看護師国家試験の出題基準にも入っているため(1)ある程度教えられていたようですが、特に「放射線による健康影響」については、ほとんど教えられていませんでした。
  こうした反省から、福島での原発事故の後、医療従事者たちへの放射線教育の拡充が始まっています。
  医師の教育に関しては、現在では、「医学教育で学ぶべき内容(医学教育モデル・コア・カリキュラム)」として、「放射線による健康影響」が加わっています(2)
  看護師の教育においても、平成24年2月に行われた看護師国家試験では、「放射線量の単位はどれか」という設問(答えは「Gy(グレイ:筆者注)」)が出されるなど、状況は変わり始めています。また震災後に、「災害時の保健医療体制の現状と課題」といった講義の中などで、「放射線の人体影響」について取り上げている教員もいらっしゃるようです。
  ところで、病院において「診療放射線技師」という職種の人が、放射線を使った胸や骨のエックス線撮影、マンモグラフィによる乳房撮影、エックス線CT撮影や放射線治療に携わっていることをご存知でしょうか。当然ですが、彼らは育成の過程で、ベクレルやシーベルト、グレイといった放射線に関わる言葉もきちんと教えられていました。病院の放射線管理などにも携わっており、放射線測定のプロでもある彼らは、福島での事故の後には、全国から数多くボランティアとして駆けつけ、放射線量の測定などで活躍しました。
  こうした「診療放射線技師」並みとは言わずとも、すべての医師、看護師らが、とくに「放射線の健康影響」に関する知識を身につけられるよう、放射線教育をさらに拡充していく必要があります。

学校での放射線教育

  学校における放射線教育も変わり始めています。福島県では県の教育委員会が主導して、放射線の基本的な知識や人体への影響に関する教育を拡充していると聞きます。さらに、平成24年度から完全実施となった中学校学習指導要領では、中学3年生の理科で「放射線」について取り上げることが明記され、他にも放射線教育のための様々な活動が進められています(3)。   このように放射線教育の拡充は、当然のことながら福島県が先行しているようですが、それにとどまらず、全国的な広がりも感じられることは大変望ましいことだと思います。

ひとりひとりが、正しい知識を

  ふり返れば、平成23年度の流行語大賞にノミネートされた「シーベルト」という言葉も、あの福島での事故が起こるまでは、ほとんどの方が知り得ませんでした。
  事故以来、現在進行形で放射線や放射性物質による被害が続いている中、放射線教育のさらなる拡充は、医療関係者や教育関係者のみならず、国民ひとりひとりにとって大きな課題となっています。
  まず私たち専門家は、放射線の健康影響や、放射線の単位などについて、正しく、わかりやすく、情報をご提供し続けなくてはいけません。その上で、国民の皆様が正しい知識を得て、それぞれが正しく判断するための環境の整備がいっそう求められています。

遠藤 啓吾
京都医療科学大学 学長
群馬大学名誉教授
元(社)日本医学放射線学会理事長



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