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2011年3月の東日本大震災と巨大津波に伴う原子炉事故の被災者である我が友人達へ(仮訳:佐々木康人)

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  今年8月にメッセージを寄せてくれたブルッカルト先生から、あらためてメッセージが寄せられましたので、以下、ご紹介いたします。なお、原文は、当グループ英語版に掲載(Message to our friends affected by the nuclear component of the earthquake/tsunami event of March 2011 (December 27, 2013) )してあります。

ウェルナー・ブルッカルト(於ウィーン)
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学医学部 放射線生物学教授
IAEA前事務局次長


  2011年3月の大震災、巨大津波から約3年を経た2013年暮れを迎えて、福島第一原発から漏れた放射能の影響を軽減していく重要な段階に到達しました。今後実施すべき仕事は沢山あります。被災者や専門家だけでなく社会全体が長期にわたり関与する必要があるでしょう。明るい面として、放射線の現状についての理解の深まりは、状況を一歩進めることに、そして、よりよい居住環境を作ることに役立つでしょう。複雑な状況の再評価ができれば、2014年にも、不必要な怖れ(不安)が払しょくされるでしょう。

  以前にも述べましたが、電離放射線の潜在的リスクは目に見えないものであって、過去の軍事的利用やチェルノブイリのような惨事からの強い情緒的な負荷があるために、報道関係者や公衆に正しく伝わっていません。福島第一原発からの放射性降下物の影響を受けた、あるいは受けたと信じている人々に不必要な情緒的ストレスや苦痛をもたらしているかもしれません。世界保健機構(WHO)の定義では電離放射線は遺伝子に危害を加える因子であり、適切な管理規制が必要とされますが、一方で放射線は私達が生活している自然環境の一部でもあります。この自然レベルの放射線は、日本でも世界でも年間2ミリシーベルト程度ですが、健康上の心配はありません。自然放射線の高い地域では放射線被ばくは数倍も高く、生涯の被ばく線量は数百ミリシーベルトに達する場合もあります。私たちがエネルギー効率の良い家を建てるようになって、高エネルギーのアルファ線を放出するラドンやその娘核種による被ばくは数倍にもなりました。また、病気の検診、診断、治療による被ばくも、私たちの現代的な生活の一部として受け入れています。生涯線量数十ミリシーベルトを被ばくする人々についての注意深い疫学調査が行われましたが、特定かつ明らかな有害事象の報告はこれまで皆無なのです。統計的なばらつきによる不確実さに基づく事象を、わずかだが有益と解釈する人々も、また、わずかだが有害とする人々もいます。いずれにしろ、福島の事故後における日本に関しては安心してよいと結論できます。がん、遺伝的影響、その他の可能性があると言われている健康影響は個人個人そして家族で見つかることはなく、将来の生活の質に変化をもたらすこともありません。現実は心配する必要がないのに、根拠のない悲観的な認識が放射線科学の事実を凌駕して、心理的な障害が生ずるようなことがあるとすれば本当に悲しいことです。

  日本と海外の多数の専門家の努力に基づく全般的に肯定的な専門的見解が信用されないことがあります。特に原子力に近い機関が関与する場合にそうだと言えます。国際原子力機関(IAEA)や国連科学委員会(UNSCEAR)の根拠地であるウィーンからの情報の中立性を疑う方々は、ジュネーブに本部があり、健康問題を担当する国連機関である世界保健機構(WHO)の専門家も同じような結論に達しているという事実を確認すれば安堵するでしょう。

  今後の課題はなんでしょうか?福島第一原発周辺の環境に放射線をもたらしている主たる核種であるセシウム137は半分になる時間が30年ですので、物理的にはゆっくりとしか減衰しません。環境要因が減衰を早めるにしても、福島県の被災地の人々の暮らしを復興するには、積極的な除染や遮蔽活動が今後2年から3年にわたり必要でしょう。日本の社会と政府は、このゴールを達成すると決意し、そのための力もあります。これまでの成果に国際社会は強く感銘を受けました。国際社会は現地の指導的立場の人々に、外からできる限り寄り添う備えができています。

  今後、挑むべきことは、被災地と被災地を越えた地域の社会構造の回復です。2011年2月以前に判断ミスがあったことは事実であり、福島第一原発4基の制御不全の基となっていた過ちから、技術的・管理的教訓を学び取らねば、信頼は回復されません。謙虚さや、公開性や、職業意識を持ち、さらにステークホールダー(関係者)すべての参加を促す真の努力により、報道関係者が、今後何年にもわたり、何を目指すべきかについての共通の理解を作り出すための建設的な役割を果たせるようになるでしょう。

  2011年3月の放射線事故の負の遺産を克服するために、日本人の創意と忍耐が今後何年にもわたって必要でしょう。現地の被災者の役割を強めていくことが技術的成果を越えた結果をもたらすのに必要でしょう。現地の被災者の参加により、この10年の間には健全な生活環境が復興されると信じます。

  私は、福島県が放射線の制約のない将来の姿に到達することを、日本が世界に示すことを願い、支援します。

佐々木康人
前(独)放射線医学総合研究所 理事長
前国際放射線防護委員会(ICRP)主委員会委員
元原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)議長

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