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「福島県立医科大学とIAEA(国際原子力機関)との国際学術会議」の報告

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  平成25年11月21日から4日間にわたり、「FMU-IAEA International Academic Conference(福島県立医科大学と国際原子力機関との国際学術会議)」が福島県立医科大学で開催され、延べ500名を越す方々が参加しました(1)。主なテーマは「放射線・健康・社会」であり、東電福島原発事故を受けて、医療人、特に医学生に対する医学教育の現場改革もテーマとなりました。

会議の概要

  初日と2日目は、医学部と看護学部の学生を対象に、原発事故後の福島での経験と世界の放射線医学教育の現状について、国内外の専門家から紹介がありました。これは、従来医学専門教育の中に位置づけられていた放射線医学教育を、社会との関係から見直そうという考えに立ったものでした。
  3日目と4日目は専門家同士の講演会で、「科学技術と社会(Science and Technology in Society; STS)」という新たな視点が取り入れられ、福島の経験を活かした次の世代の医療人育成について活発な議論が展開されました。

新たな放射線医学教育カリキュラムの策定

  今回の原発事故に遭遇した医療人の体験は反省も込めて少しずつ明らかにされていますが、福島県立医科大学では、実際の原発事故を経験した国内唯一の医科大学としての役割を果たす為にも(2)、広島大学や長崎大学と協力して、過酷な放射線災害に向き合った医療人の真摯な声に耳を傾けた新たな教育訓練プログラムがスタートしています(3)
  今回の会議では、その教育訓練プログラムも含めた、福島発となる新しい、重要な医学教育カリキュラムの策定に、国内外の専門家から熱い期待が集りました。
  一方で、我が国の医学教育全体における放射線医学教育、特に放射線健康リスク科学の脆弱な現状についても報告されました。、この点については、学術の動向の特集(4)以外に、日本学術会議・臨床分科会の放射線防護・リスクマネジメント分科会でも改善に向けた提言が準備されつつあります。

「STS」視点での医療人育成

  そのカリキュラムにおいて重要な視点が、前述のSTSです。医療に関わる異なる職種の専門家たちと社会、すなわち公衆を結ぶ為に、社会科学の一つであるSTSがどのように関われるのかという視点で、専門家による討論が行われました。
  「医学」と「社会科学」との対話にとどまらず、「学際(異なる学問分野にまたがる研究等)」という分野を超えての取組みや、社会の中で広く橋渡し的な仕事をする医療人の育成が必要であると提案されました。すなわち、細分化され、専門化された医学領域での課題解決(主として診断と治療の向上)を追求する現在の医学教育に対して、コミュニュケーション能力を含む個々人の総合的能力を開発するための、新たな放射線教養教育が議論されたのです。
  これまでも医学者や保健医療の専門家である医療人は、他の科学者と同様に、「正しい放射線情報や健康リスク」を国民に伝えるよう努力してきました。一方で国民が求めているのは、情報やデータそのものではなく、むしろ、正しく情報を解釈するにあたって信頼できる「人」であるとも言えます。それは、集団対応ではなく個別に個々人の患者さんに対応する、まさに医療の最前線における健康リスク管理そのものでもあります。
  「科学技術と社会」のダイナミックな関係を紐解くことは、多層で複雑な価値観が交錯する中で正解の無い答えを探す事と似ています。すなわち、◯か×か、白か黒かといった明白な答えではなく、不確実で不確定なグレーゾーンの中で、最善の答えを見出す努力の大切さを教える医学教育にこそ、普遍的な価値があります。
  医学・医療の最前線こそが、常にリスクと隣り合わせであり、決断と責任を求められる場です。そのことを念頭に、新たにSTSの視点が取り入れられることになりました。

STSを活用した新たなガイドライン

  また、時々刻々と局面が変わる複合災害の現場ニーズに合わせた、復興支援に直接役立つような取組みへの要望もありました。たとえば避難生活者に対する差別や地域社会の分断という問題、メディアのあるべき姿などについても議論されましたが、まさに今回のさまざまな議論を集約し、放射線医学教育におけるSTSを活用した新たなガイドラインの必要性が、IAEAから提言されました。
  最後になりますが、教育の目標に関する根本的な意識変革が、幅広く教養教育でも求められているのではないでしょうか。「自分の目で見て、自分の頭で考え、判断・行動することが重要であることを認識し、そのような能力を涵養(ゆっくりと養い育てること)することが重要である」(政府事故調委員長所感)というこの事こそが、原子力災害や放射線事故に関する医学教育においても、再認識される必要があります。

≪国際学術会議の開催に至った経緯≫

  平成24年12月、IAEAと福島県の間で、外交ルートを通じた包括的な協力関係に関する覚え書きが締結されました。その中で、福島県とIAEAの間で、放射線モニタリングや除染事業の実務に関して協力する合意がなされました。
  また、福島県立医科大学とIAEAとの間では、「人の健康」に関する協力分野として、3つのプロジェクトが合意されました(5)。第一として、医療関係者・専門家に加えて、医学生の能力開発に関わる放射線医学教育の強化、第二に、メンタルケアと放射線リスクコミュケーションなど放射線災害医療における研究協力の強化、第三に、放射線災害の非常事態における医学物理士の為の具体的なトレーニングパッケージの作成です。
  今回の会議は、この時の覚え書きに従って開催されました。

山下俊一
福島県立医科大学副学長
長崎大学理事・副学長(福島復興支援担当)



参考資料

  1. FMU-IAEA International Academic Conference
  2. 福島県立医科大学附属病院被ばく医療班編集:放射線災害と向き合って.ライフサイエンス出版.2013年
  3. 福島県立医科大学災害医療総合学習センター
  4. 学術の動向2013年12月号.特集.災害に対するレジリエンス構築:原子力災害からの復興に向けた課題と対応.
  5. Fukushima Radiation and Health
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