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暮らしの中の放射線被ばく ―医療被ばくの現状―

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  福島第一原発の事故の後、放射線の健康影響が大きな関心を呼んでいますが、実は放射線は、暮らしの中の様々な分野で利用されています(第6回第35回参照)。このうち多くの国民の皆さまにとって最も身近なのは、病院での放射線利用でしょう。事故後は、このような診断・治療目的の放射線による被ばく(医療被ばく)に対する関心も高まっているようです。今回は、この医療被ばくの現状についてご紹介したいと思います。

医療現場における放射線利用

  病気の診断から治療まで、現代医学では放射線利用が欠かせません。たとえば高熱と咳・痰が続き、主治医の先生から「レントゲン撮影しましょう」と言われたら、先生は肺炎や結核などを疑って、放射線を使った胸の単純エックス線撮影を行って、診断しようとしているのでしょう。エックス線はドイツ人物理学者のレントゲンが発見したことから、今でも「レントゲン撮影」という言葉が使われたりしています。
  たとえば癌の放射線治療は、副作用が少なくQOL(Quality of life=生活の質)に優れた「患者に優しい」治療として、広く受け入れられています。癌の放射線治療では、癌の部位に対して、多くの場合6万ミリシーベルトという大量の放射線を照射します。一度に照射すると障害が強いので、局所的に1日1回あたり2千ミリシーベルト、計30回の治療後に合計6万ミリシーベルトになるようにします。
  また、乳がんの早期発見を目指す乳がん検診でも、放射線を利用したマンモグラフィが行われています。
  このように医療で使われる放射線による被ばくを、医療被ばくと言います。放射線による健康影響は否定できないももの、医療被ばくには、線量限度(個人が受ける被ばく線量をできるだけ抑えるために設定された値)は適用されません。患者にとって、被ばくによる健康影響の懸念をはるかに上回る大きな健康上のメリットがあるからです。

世界各国の医療被ばくの現状

  放射線の医学利用は、世界各国でも毎年増加しています。「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の報告でも、放射線診断による医療被ばくの世界の平均値は、2000年報告では年間0.4ミリシーベルトだったのが、2008年報告では年間0.6ミリシーベルトと50%増加しました(文献1)。一部の先進国では、医療被ばくの線量が、実効線量として自然放射線からの線量を超えています。

日本における医療被ばくの現状

  わが国でも、年間延べ1億件以上の放射線診断が行われ、放射線治療を受ける癌患者は年間16万人を超え、さらにどんどん増加しています。わが国の医療被ばくによる一人あたりの実効線量は、年間3.9ミリシーベルトと推定され、自然放射線による年間被ばく線量2.1ミリシーベルトよりも多いとされています(文献2)。
  この年間3.9ミリシーベルという数値の背景には、幸せなことに、誰でも病院でエックス線CT検査を受けられる環境が整っていることも影響していると思われます。こうしたCT検査体制は、世界一と言われるわが国の医療環境の恩恵のひとつでもあります。
  日本のCT装置台数は世界一で、年間約3千万件ものCT検査が行われています。一方、米国の人口あたりのCT検査件数は、わが国よりもさらに多いようです。CT装置1台あたりの平均検査件数が少ないのが、わが国の医療の特徴です。

エックス線CT検査の進歩

  日本に限らず、世界で医療被ばくが増えている最も大きな原因は、エックス線CTの普及によるものです。CT検査件数は、この20年間に20倍になったとさえ言われています。
  CT装置は目覚ましく進歩し、最新のCT装置では、最短わずか0.4秒で撮影することが出来ます。一刻を争う患者には、短時間で検査が終わるCTが欠かせません。事故などの外傷による救急患者の診療には、CTが最も役立ちます。
  CT検査によって患者が受ける線量は、使用するCT装置、撮影部位、検査方法によって大きく変わり、正確には難しいのですが、1回あたり6.9ミリシーベルトとされています。またIAEAの指針では、「胸のCT撮影は、胸の単純エックス線撮影の500倍の放射線量を受ける」とされています(文献3)。

肺癌CT検査の有効性

  CT検査が特に有効な病気に、たとえば肺癌が挙げられます。タバコで肺癌が増えることが知られていますが、米国で行われた大規模研究では、ヘビースモーカーの肺癌検診に低線量CTを採用すると、早期肺癌が数多く見つかり、肺癌死亡者数が20%減少しました(文献4)。
  わが国の一部の施設では、肺癌検診のひとつとして低線量CTを採用していますが、肺癌の集団検診としてはまだ利用されていません。単純エックス線撮影に比べて、高い検査費用が課題となっています。

CT検査の医療事故

  2009年、米国の大病院において、装置の操作を誤った結果、200人以上の患者のCT撮影部位に一致して、頭部の脱毛や皮膚の紅斑といった症状が生じる出来事がありました。放射線過剰照射による急性皮膚障害よって、放射線照射された部位で脱毛したのです。皮膚の線量は3千から4千ミリシーベルト以上に達していたと想定されます。
  この事故をきっかけに、米国で医療被ばくが社会問題となり、医療被ばくへの関心が一気に高まりました(文献5)。またCT検査を受けた子どもで、放射線に起因した癌が増えるのではないかとの報告もあり(文献6)、CT検査と発癌との関係も活発に研究されています。

CT検査の低線量化へ向けて

  医療人にとって、可能な限り少ない線量でCT撮影する努力が欠かせないのは当然のことです。医療関連企業も競って、少ない線量でも画質の優れたCT装置、いわゆる低線量高画質CT装置の研究開発を進めています。わが国の放射線医学関連学会でも、全国の大病院において患者のCT線量を調査し、推奨すべきCT線量(診断参考レベル)を設定する取り組みが始まりました。

  最近、復興庁を中心に取りまとめられた「放射線リスクに関する基礎的情報」(文献2)の中でも、身の回りの中の放射線の一つとして、医療現場における放射線診断や検診のための放射線が取り上げられ、私自身も専門家・有識者の一人として助言しました。
  わが国が誇る医療水準の恩恵を十分享受しながら、健康に暮らしていくためにも、国民の皆様に、医療被ばくについて正しく理解していただくことが欠かせないと考えています。

※放射線量の単位については、部分被ばくが大部分の医療現場では実際はグレイで示すことが多いのですが、ここではミリシーベルトに統一して記述しています。


遠藤 啓吾
京都医療科学大学 学長
群馬大学名誉教授
元(社)日本医学放射線学会理事長


参考文献

  1. UNCSEAR2008年報告書
  2. 復興庁など「放射線リスクに関する基礎的情報」2014年2月
  3. IAEA Radiation Protection of Patients (RPOP).
  4. National Lung Screening Trial Research Team. Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening. N Engl J Med. 365(5):395-409, 2011
  5. Wintermarka M, Levb MH. FDA Investigate the safety of Brain Perfusion CT. AJNR. 2010, 31: 2-3.
  6. Pearce MS, Salotti JA, Little MP et al. Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study. Lancet. 380(9840):499-505, 2012
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