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首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
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風評被害を乗り越えるために②
~ 不安を払しょくするための正しい情報とは ~

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 先日、首相官邸内の食堂で「親子どんぶり」を食べる機会がありましたが、食堂の米は全て「福島県産」を使用しているとのことで、大変美味しいものでした。

 現在、市場に流通している全ての福島県産の米は、放射線量を測定してから出荷されており、放射性セシウムが「1キログラムあたり100ベクレル」という規制値以下の米だけです()。

 放射線の専門家として結論から申し上げると、米をはじめ、現在市場に流通している福島産の食品について、放射線のことを心配する必要はありません。実際、ホールボディカウンターという装置で体内放射線量を測定した結果、ほとんどすべての住民のセシウムによる内部被ばくは、検出できないほど低いレベルです()。にもかかわらず、非常に残念なことに現在でも、福島県産というだけで売れない、値段が安いことがあるという声を耳にします。

 今回は前回の第七十回コメント)に引き続き、専門家のひとりとして、そうした風評被害を乗り越えるために必要な情報をお伝えしたいと思います。

地球上の生物に含まれる放射性物質

 そもそも地球上の全ての動物、作物には、一定の放射性物質が含まれます。たとえば、カリウム40という半減期13億年の放射性カリウムは、原発事故による健康影響が心配されている放射性セシウムとよく似た性質をもちますが、この物質無しでは、生物は生存できません。このカリウム40は、ヒトでは体内に約4千ベクレル含まれ、その量は筋肉量にほぼ比例します。たとえば牛肉にも、1キログラムあたり約100ベクレルのカリウム40が含まれています。

 その他にも、すべての植物に含まれている炭素14という半減期5,730年の放射性物質があります。植物は、炭素14の含まれた炭酸ガスから光合成でブドウ糖を作り栄養源としているため、生きている限り炭素14の存在比率はほぼ変わりません。やがて植物が死ぬと光合成しなくなり、植物内の炭素14が5,730年の半減期によって減少してゆきます。

 そうしたことから、古代遺跡から見つかった木片中の炭素14の濃度を測定すると、その植物の死んだ年、その木片の年代を知ることができます。ちなみに、ウィラード・フランク・リビー博士は、この放射性炭素年代測定法で1960年にノーベル化学賞を授与されました。

低い線量による放射線影響研究

 「非常に低い線量による放射線影響の研究」について、「放射線の無い場所」で飼育した生物と比較研究すれば、その低線量の放射線影響を知ることが出来るのではないか、との提案をいただくことがあります。しかし、前述しましたように、放射性カリウムや放射性炭素などは、一定の割合でどこにも必ず存在します。つまり、「放射線のまったく無い場所」は地球上どこにも存在しないため、そうした比較研究を行うのは不可能なのです。

福島県における出産状況

 あらためて申し上げておくことがあります。福島県の県民健康調査 によると、原発事故によって福島県の住民が受けた外部被ばく線量は、99.8%が5ミリシーベルト以下と推定されています()。放射線・放射能への恐怖から、出産などへの影響に関する不安が広がっていますが、実際には、この「5ミリシーベルト以下」のような低線量の放射線が原因で、妊娠、出産に影響することは全くありません。また遺伝的な影響もありません。

 幸いなことに現在では、福島県の里帰り出産数は原発事故前と同じ水準に戻りました。また、妊産婦に関する調査でも、福島県の早産率、低出生体重児出生率はともに全国平均と変わりません。

 その背景に、医療関係者の正しい情報の認識と共有、そして、その上での住民の方々への丁寧な説明があったことが大きいと思っております。子どもは地域の宝です。これからも福島県でたくさんの子どもたちが産まれ、そして健康に元気に育つことを祈っています。

風評被害を乗り越えるために

 福島県に関する誤解や誤認に基づく風評被害は、決して許されるものではないと考えます。大きな課題ですが、まずは「放射線の影響」についての科学的な知識を皆で共有することが大事です。その上で、風評被害を乗り越えるためにどう対応すればよいか、国民全体で考えなくてはいけません。

 福島県内には、私も大好きな温泉地が沢山あり、日本でも有数の温泉の宝庫です。福島県の魅力を知るには、福島への旅行が最適かもしれません。そして、福島県産の美味しい農作物を外国に輸出し、わが国だけでなく外国でも味わって欲しいものです。福島は必ず復興すると信じる多くの国民の1人として、これからも日々福島を応援していきます。


遠藤 啓吾
京都医療科学大学 学長
群馬大学名誉教授
元(公社)日本医学放射線学会理事長
元(一社)日本核医学会理事長








参考文献

  1. (1)第三十一回コメント: 福島県産の食品の安全性について
  2. (2)厚生労働省:食品中の放射性物質に係る基準値の設定に関するQ&Aについて
  3. (3)福島県:ホールボディカウンターによる内部被ばく検査 検査の結果について
  4. (4)第七十回コメント:風評被害を乗り越えるために① ~不安を払しょくするための正しい情報とは~
  5. (5)福島県:第15回福島県「県民健康調査」検討委員会資料(平成26年5月19日開催)
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