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首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
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放射線の健康影響に関する科学者の合意と助言(1)
~専門家会議座長を務めた経験から~

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専門家会議の経緯

 平成25年11月から平成26年12月まで計14回に渡り、環境省に設置された「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」が開かれ、私が座長を務めさせていただきました。専門家の委員は17名、検討内容は(1)被ばく線量把握・評価に関すること、(2)健康管理に関すること、(3)医療に関する施策のあり方に関すること、(4)その他関連すること、となっていました。

 委員会の検討内容と委員の専門分野(放射線量測定・評価、放射線生物学の基礎、放射線の医学的影響、放射線の防護、健康管理、健康診断、疫学、甲状腺)を照らせば、報告書をまとめるのに、それほど意見の違いはないと予想していました。線量評価に始まり、線量に基づく健康リスクの推定、健康リスクに基づく健康管理、予想される疾患の医療の在り方、さらに被ばくの影響の科学的調査方法などについては、すでに国際機関の報告書も出版されていますし、それに日本の最新の情報を加えれば良いという風に考えていました。

 ところが、ふたを開けてみますと、議論の参考のためにヒアリングにご協力いただいた様々な立場の研究者や関係者の方々に加えて、それぞれの専門分野の検討会委員からも議論百出、結果的に中間取りまとめまでに1年以上の期間が必要でした。委員全員の専門家としての能力を結集し、合意した中間取りまとめが出来るまでの詳細は、すべて議事録として環境省のホームページ に記載されています。

 専門家会議の詳細については議事録をご覧いただくとして、ここでは、座長として議論をまとめる上で苦労した点をお伝えしたいと思います。

座長として苦労した点

 一点目は、「放射線の被災者に対する影響」の考え方についてです。1)放射線の線量評価に基づく生物学的影響と、2)放射線に対する不安、恐怖、事故に対する被害者の怒り、その結果としての、避難などの生活環境の変化による健康影響など(UNSCEARの福島に関する報告書においても、「UNSCEARによる議論の範囲ではない」と断って記載されている「Mental and Social Effects」という範疇の影響)が、混在して議論されてしまいました。前者は、被ばくがなければ被ばくの影響はないとして、線量の評価が議論の大きな問題になりますし、後者は、被ばく線量の多少とはあまり関係はなく議論されます。

 もう一つの大変だった点は、各委員の意見を可能な限り取り入れ、委員会全体の合意のもとに中間取りまとめを作成することでした。最終的には章を分けて、委員の専門分野である生物学的影響に関しては詳細な報告にし、専門家会議を設置した環境省だけではなく全省庁的な取り組みが必要であるとして、その重要性を強調することになりました。その上で、委員各位の意見も具体的に報告書に取り込み、その文章を委員に訂正いただいた上でさらに専門家会議で修正するという段階を繰り返して、ようやく委員全員の同意のもとに中間取りまとめが完成しました。

 福島はもとより、福島周辺地域の今後の健康管理に関する当面の政策決定に、専門家の報告書が必要である、という具体的な状況を委員が自覚し、協力的にエビデンスに基づいた研究と議論を通じて合意に達し、中間取りまとめを作成することが出来たのではないかと思います。委員各位のご理解とご努力に、座長としてあらためて最大の敬意を表します。

「政策のための科学」

 原発事故から4年が経過し、5年目に入ろうとしています。被災した方々は、現在も塗炭の苦しみの生活を続けておられます。一方でこの4年間に、膨大な科学的な資料、知識が積み重ねられています。4年間いろいろな議論がありました。上から目線はいけない、安全を語っても安心にはならない、被災者の声を直接聞け、小人数で話し合うこと、相談員を作る、など、いずれも本当に必要なことだと思っています。初期のまだ資料も知識もない頃に言われた「放射線の影響はわからない、わからないから怖い」という状況と4年間の科学的知識が蓄積された現在の状況とは全く違います。

 専門家会議の中間取りまとめを経験して、私は、当面の施策、中長期的な施策の策定にあたって、日本の専門家が科学の能力を結集し、合意した助言を作成することの必要性と意義を感じました。「政策のための科学 (Science for Policy)」の一つの具体例ではないかと思います。

 科学者の合意につきましては、次のコメントで詳しく書きたいと思います。


長瀧重信
長崎大学名誉教授
(元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)
(公財)放射線影響協会理事長



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