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公表されている線量は子どもに適用してよいか?
~最新の研究より~

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消えない不安

 福島第一原発事故による環境汚染のレベルや個人線量計を用いた被ばく線量が年間10ミリシーベルト超えることはほとんどないことがわかった後にも、幼少児への健康影響についての懸念と不安は続いています。今後とも深い関心をもってみていかなければならないのは、お子さん方の健康と、その基本となる子どもに関する線量についての考え方です。

実効線量と実用量

 以前に実効線量とシーベルトの章で解説したように()、放射線防護の中核をなす実効線量()は、実際に測定できる値ではありません。あくまで、成人標準男女の模型と放射性物質の体内での動きをモデル化して計算で得られる値です。

 放射線防護管理の実務には実用量(**)を使います。放射線測定器の目盛に値付けしてある実用量は実効線量の大きめの推定値で、この値を使って十分安全側の防護管理が保証されると考えられています。

二つの研究報告

 男女およびすべての年齢の平均値である組織加重係数を用いて求められる実効線量は小児の線量目安としても使用されますが、実用量は「幼児や小児集団であっても十分に安全側の大きな値に見積もられているか?」という疑問が残ります。この問題を「国際放射線防護委員会」(ICRP)第二委員会(被ばく線量について担当するところです)委員長で「国際放射線単位測定委員会」(ICRU)委員長でもあるハンス・メンツェル(Hans Menzel) 先生に質問してみました。先生から参考にいただいた論文()では、福島原発事故を念頭に、ボクセルと呼称される微小直方体で構築されたボクセル・ファントム(ファントムとは、人体の皮膚、体内臓器が受ける放射線量を決めるため、人間の代わりとして用いられる模型です()を用いて、乳児、2人の年齢の異なる子ども、成人と妊婦について、環境放射線による外部被ばくの変換係数を算定してあります。身体の体積が小さいほど実際の線量は大きくなるが、環境モニタリングで得られる周辺線量当量は、全てのファントムで、実効線量を過大に評価していると報告されていました。このことからは、実用量で得られた実効線量の推定値は子どもでも十分安全度が見込まれていると推測されます。

 さらに、放射線医学総合研究所の最近の報告()について記します。年齢の異なる児童の体格を模擬した人体形状ファントムを用い、その表面に装着した個人線量計の応答を、実験室での照射実験によって調べました。その結果、周辺線量当量から個人線量の目安をつける換算係数として、生後から3歳までは0.85を、3歳から18歳までは0.8(成人は0.7)を使用することで、どのような環境においても個人線量(実効線量)を適切に評価できることを示しました。実用量である周辺線量当量を子どもに当てはめても、十分安全度に余裕があることになります。

実用量は余裕をもった大きめの目安

これらの研究結果によって、環境モニタリングに用いる実用量である周辺線量当量や個人線量計の測定値を幼少児に適用しても、実効線量の安全側の推定値が得られることが明らかになっています。将来的に、現在の成人用に加えて、幼少児の年齢相別に実用量が目盛られている空間線量計や個人線量計が開発され、年齢相応の線量を直接読み取ることができると、より安心して、お子さん達の生活の指標に用いることができると思います。成人の場合は標準男女とは体格の差があるとはいえ、さらに大きな安全度を見込んだ実効線量の推定値を実用量が示していることになります。僅かな数値の変動に敏感に反応して一喜一憂する必要はないと思います。あくまでも実際に受ける線量の相当大きめの目安であることを理解しておくことが肝要です。


*とても学術的な内容になっていますが、学術的に実効線量の推定の仕方について記しておきます。実効線量は、標準男女模型としてのファントムと人の生理学的動態モデルを用いて臓器の平均吸収線量から各臓器の線量(等価線量)を計算し、この等価線量男女平均値に臓器ごとに定めたがんリスクの相対的指数(組織加重係数)を掛け算した後、全臓器の値を足し合わせて求めます。上述の各臓器の線量(等価線量)から、全組織の実効線量を計算する際に用いる組織加重係数は、「両性およびすべての年齢の集団に概数として適用するように意図された」()大きな誤差が内在する係数なので、「実効線量の主な利用は、放射線防護の計画立案と最適化のための予備的な線量評価、及び規制目的のための線量限度の順守の実証である。実効線量を疫学的評価のために使用することは推奨されないし、また、個人の被ばくとリスクを詳細に特定する際の遡及的な調査にも使用すべきでない。」()とされています。さらに、ICRP勧告では、将来的に、小児年齢別模型や妊婦模型も作成するべきであるとしています。

 **「国際放射線単位と測定委員会」(ICRU)が提案する、人体軟部組織と密度が同じ材質で作った球形模型の表面から1センチメートルの深さの線量である、周辺線量当量はエリアモニターに、個人線量当量は個人線量計に用いる実用量です。実用量が目盛に値付けしてある線量計の測定値は実効線量の大きめの推定値です。空間線量計や個人線量計から読み取る「毎時aマイクロシーベルト(aμSv/h)」は標準人が1時間に受ける放射線被ばく量の大きめの推定値です。bベクレルの放射性同位元素を摂取した時に、ICRPが求めた換算係数を掛けて算出する預託実効線量も、内部被ばくで生涯に受ける内部被ばくの実効線量を大きめに推定した値です。いずれも標準人(成人)の線量を個々の人々の線量の目安として使用しています()。


佐々木康人
前(独)放射線医学総合研究所理事長
前東京大学医学部教授(放射線医学)
前国際放射線防護委員会(ICRP)主委員会委員
元原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)議長



参考文献

  1. 第四十ニ回 放射線防護に用いる量と単位 ~第2回 グレイとシーベルト~
  2. Petoussi-Henss, N., Schlattl, H., Zankl, M., Endo, A., and Saito, K. Organ doses from environmental exposures calculated using voxel phantoms of adults and children Phys.Med. Biol. 57 (2012) : 5679-5713
  3. ATOMICAファントム
  4. (独)放射線医学総合研究所、(独)日本原子力研究開発機構 「東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に係る個人線量の特性に関する調査」の追加調査―児童に対する個人線量の推計手法等に関する検討―報告書、NIRS-M-276 , 2015
  5. ICRP刊行物103、「総括」の章のパラグラフi(国際放射線防護委員会の2007年勧告、翻訳発行 (公社)日本アイソトープ協会)
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