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首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
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日本の皆さんへのメッセージ(仮訳:前川和彦)

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 メトラー教授からメッセージが寄せられましたので、以下、ご紹介いたします。なお、原文は、当グループ英語版に掲載A Message to the Japanese People (July 30, 2013)してあります。
  メトラー教授は、チェルノブイリ事故を始め世界中の放射線事故での検証委員や助言組織の専門委員等を務められ、また国連科学委員会(UNSCEAR)や世界保健機関(WHO)等の国際機関に永らく専門家として参画されていて、“放射線と健康影響”に関して世界中で最も精通されている医師の一人です。1999年の東海村臨界事故で被ばくされた患者さんの治療に際しても我々に的確な助言を与えて頂きました。

フレッド・A・メトラーJr.(Fred A. Mettler Jr.)
ニュ―メキシコ大学医学部放射線科 名誉教授、臨床教授
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)米国代表
国際放射線防護委員会(ICRP)名誉委員


 1986年におこったチェルノブイリでの大惨事に際して、旧ソ連政府と国際社会は、事故の原因、放射性物質による汚染、放射線線量及び健康影響を評価する独立した包括的な複数年の国際プロジェクトを立ち上げ、このプロジェクトを主導する、尊敬され且つ誠実な放射線科学の専門家を捜しました。そして世界最善の人物として選ばれたのは広島の放射線影響研究所の故・重松逸造博士でした。名誉なことに、私は彼によって国際チェルノブイリプロジェクトの健康影響部門のリーダーに選ばれました。私はすぐに、日本の仲間に健康チームのメンバーになってくれるよう頼みました。それは、彼らが疑いなく世界で最善の方々だったからです。その多くが家族から離れ、仕事を擲って、2年間にわたり汚染された村で私とともに働いてくれました。笹川氏が会長を務める日本財団もまた、チェルノブイリでの活動に貢献して頂きました。その結果、世界は日本に大いに感謝しなければならなかったのです。福島事故以降そして今も、国際社会の専門家たちは、自分達になし得るあらゆる方法で、我々の仲間を、友達を、そして日本の皆さんを支援する用意があります。

 福島事故は、地震とそれに続く津波からの甚大な破壊と人命の喪失によって信じられないほど複雑なものとなりました。今にして思えばより良い方法が見つかるかもしれませんが、私はこの事態に対して、世界中の他のどの国も日本と同等かそれ以上の対応ができたとは思えません。

 この事故の影響は多く、社会的、経済的、心理的、そして医学的側面を包含しています。避難と移転が極めて大きな心的外傷となっていて、心的外傷が今も続いている一方、避難と移転により何万人もの人が有意な放射線被ばくを避けることができたことに疑いの余地はありません。食品供給の制限と管理は、健康影響を避けるうえで大変重要でした。福島原発では、原子炉が重大な損傷を受けた上に放射性物質が放出されたにもかかわらず、チェルノブイリ事故とは対照的に、一人の急性放射線障害患者も、それによる死者も出ませんでした。これは適切な放射線防護によるものであり、日本の誇れる点です。

 放射線被ばくによる健康リスクは100年以上に亘って研究されてきて、きわめてよくわかっています。世界保健機関(WHO)と原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が個別に行った目下の推計では、小さなリスクがないとは誰も言えませんが、この事故による将来のがんリスクは極めて低いとされています。

 当然のことながら子を持つ親たちは、放射線が子供たちにもたらす有害な影響の可能性について心配しています。子供はある種のがん(特に甲状腺がん)の誘発について大人より感受性が高いことが知られています。この子供の甲状腺がんの主たる危険要因は事故の間に放出された放射性ヨウ素ですが、放射性ヨウ素は現在では最早存在しません。子供たちの検査とフォローアップが広範囲に実施されています。親ごさん達は、甲状腺がんは例え発見されたとしても、とても治りやすいということに心すべきです。残念ながら、このようなフォローアップが、身体の組織の正常範囲内での変化を検出する場合があり、このことが親ごさん達に不安をもたらすこともあるでしょう。セシウム137の汚染が残っている地域の子供たちに対しては長期的な被ばくに配慮したケアが必要で、勧告された公衆の年間線量限度を用いることは適切であると思います。

 皆さんは、放射線により被ばくした親から将来、生まれてくる子供への遺伝的な影響についても心配しておられます。しかし、多くの科学的研究によって、人間においてはこのような遺伝的影響は起らないようであることが示されていることにも心すべきです。事故はまだ完全には収束していません。住民の方々が帰還される前の汚染地域の専門家の評価、膨大な量の放射性廃棄物の処理に関する専門家の評価が極めて重要な問題として残っています。

 日本には世界的に見ても一流で献身的な医師や放射線防護の研究者や慈善団体も存在します。そして彼等はここまで既にしっかりとした歩みで進んできており、今後ともみなさんを支援し続けていくでしょう。日本の皆さんには、ぜひこの事実を知り、心を安んじていただきたいと思います。彼らの能力と幅広い専門的知識は必ずや福島事故の被害にあわれた人々、家族を支援し続けていくことでしょう。

前川 和彦
東京大学名誉教授
((独)放射線医学総合研究所緊急被ばく医療ネットワーク会議委員長、日本放射線事故・災害医学会代表理事)

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