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首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
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福島原子力災害に際しての福島県の皆さんおよび
日本の皆さんへのメッセージ(仮訳:長瀧重信)

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 ゴンザレス先生からメッセージが寄せられましたので、以下、ご紹介いたします。なお、原文は、当グループ英語版に掲載 Message to the People in Fukushima Prefecture as well as People in Japan about the Fukushima Nuclear Disaster. (July 30, 2013) してあります。

 ゴンザレス先生は本文中にあるように放射線防護の専門家として様々な立場で活躍してこられました。そして、このたびの東電福島第一原子力発電所事故に際してはICRPの「ICRPの放射線防護システムに対して、日本の原子力発電所事故から学んだ初期の教訓に関するタスクグループ84」の代表を務め、今年、福島市で開かれた放射線健康リスク管理福島国際学術会議において海外参加者の基調講演者を務められるなど、福島県民や日本国民のために力を尽くしてこられました。

アーベル・J・ゴンザレス(Abel J. Gonzalez)
アルゼンチンの環境科学および海洋科学のアカデミー会員
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)アルゼンチン代表
国際放射線防護委員会(ICRP)副議長
国際原子力機関(IAEA)安全基準委員会委員
アルゼンチン原子力規制当局の筆頭アドバイザー


  アルゼンチンの放射線防護の専門家として、日本の皆さん、とりわけ2011年3月11日におこった悲惨な地震と津波に引き続いて起こった原子力災害に見舞われた福島県の皆さんに私自身のメッセージをお送りしたいと思います。

  私たちは地理学的には離れていますが(私のいるブエノスアイレスは福島から見ると地球のほぼ真裏に当たります!)、われわれアルゼンチン人は日本の皆さんをとても近くに感じています。19世紀末から、多くの日本人がアルゼンチンに移住してきて、我が国の中でとても高く評価されるコミュニティを形づくってきました。私自身、日系人の方々と、学校で、大学で、専門的活動の場で、友情をはぐくんできました。

  私は科学者で、アルゼンチンの環境科学および海洋科学のアカデミー会員で放射線防護を専門としています。現在は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)アルゼンチン代表、国際放射線防護委員会(ICRP)副議長、国際原子力機関(IAEA)安全基準委員会委員およびアルゼンチン原子力規制当局の筆頭アドバイザーを務めています。このような経歴の中で、チェルノブイリ事故の国際的な評価の枠組みを含む、放射線から人々を守る多くの国際的な活動を私は主導してきました。さらに、何百もの科学論文を発表し、これまでに以下のような放射線防護に関する賞を受賞してきており、そのことを大変誇りに思っています。モルガン賞(2000年と2003年の2回)、シーベルト賞(2004年)、ローリストン・テイラー賞(2005年)、マリー・キュリー賞(2008年)などです。また、IAEAがノーベル平和賞を受賞した時、私はその事務局におり、喜びを分かち合いました。

  職業柄、また、アルゼンチンの日系人の方々とのつながりから、その初期から福島の悲しいでき事に関わることは私にとって自然なことでした。私は福島県を、そして、とりわけ影響の大きかった飯舘のような地域を何度も訪れています。被害にあわれた人々を援助するための、日本財団の取り組みにも参加しました。事故初期の教訓に関するICRPタスクグループを率い、最近ではUNSCEARが行った事故由来の放射線量とそれによる影響の推定に参加しています。現在は、今回の悲しいでき事による放射線影響を評価するためのIAEAの国際グループの代表を務めています。そして最後に、首相官邸の原子力災害専門家グループへ助言をすることを大変誇りに思っています。

  このような立場から、事故により放射線被ばくを被った方々に、放射線影響に関して特に申し上げておきたいメッセージを伝えたいと思います。

  1. あなた方の故郷の状況について、これまでになされてきた国際的な評価は大変勇気づけられる内容です。UNSCEARがごく最近、国連総会に提出したレポートによると、一般の方々が事故後一年間に被った放射線被ばくと今後一生の間に被ると推定される放射線被ばくは、ともに低いか非常に低いものです。被ばくされた一般の方々やその子孫に放射線由来の健康影響の上昇が認められることはないでしょう。そして、最も重要な健康影響は精神的、社会的な影響で、地震、津波、原子力災害そして放射線被ばくへの恐れと重苦しさが関係しています。
  2. 最近、ICRPタスクグループに参加した専門家たちは、権威ある科学雑誌であるJournal of Radiological Protection誌に彼らの考えを発表しました。放射線防護に関する彼らの報告によれば、福島事故の間もそのあとも、それが重大な事故であったにもかかわらず、人々にはしっかりとした防護措置が取られ、急性放射線障害や致命的線量の被ばくは見られませんでした。また、世界保健機関(WHO)の評価によると、損傷を受けた発電所の近くにいた人々でさえも、健康影響が認められないほど低い線量しか被っていないと推定されました。
  3. IAEAの調査はまだ準備中ですが、予備的な知見は、さらに低い線量を推定しています。それは、これまでの評価が、極力線量が高くなるようなモデルを用いた保守的なものであるためです。IAEAの調査は実際に測定されたデータに基づいており、これが保守的な推定値よりもずっと小さいのは自然なことです。

まとめとして、国際的専門家たちは、悲惨な事故であったにもかかわらず、一般の方々が受けた放射線被ばく量は非常に低く、健康影響は現れないだろうと結論づけています。

  最後に付け加えますが、被災地の大部分は、有史以前から人々が健康に生活してきた世界の高線量地域よりも放射線量は低いのです。ですから、みなさんは通常の生活を再び築くことができます。

  加えて、放射線防護の専門家たちは、この悲しいでき事から多くのことを学ばなければなりません。ICRPタスクグループの専門家は、被災者の方々が放射線被ばくから、おおむね、防護されたことを再確認する一方、放射線防護に係る多くの課題を認識したからです。これらの課題は、被災者、当局、そして多くの専門家から提示されたものであり、適切な回答が求められています。これらの放射線防護に係る諸課題は、以下のものを含みます。

  放射線リスクの推計(そして名目リスク係数に対する誤解)、低線量被ばくに起因する放射線影響、放射線被ばくの定量的評価、内部被ばくの重要度評価、緊急危機管理、救助者及びボランティアの保護、医療援助による対応、負荷をともなう防護活動の正当化、緊急事態から現存被ばく状況への移行、避難地域の再生、公衆の個人線量制限、幼児・子供への気づかい、事故による公衆被ばくの分類、妊婦と胎児や胚への配慮、公衆防護のモニタリング、周辺地域、がれき、残留物、消費財の「汚染」への対処、心理的影響の重要性に対する認識、そして、情報共有の促進。結論として、放射線防護に関わる人々は、福島の教訓から学び、同定した問題を我がこととして解決していく、倫理的義務を負っているのです。

  次の大きな事故が起こる前に、とりわけ、以下のことをはっきりさせておかねばなりません。放射線の潜在的健康影響のリスク係数を明らかにすること。低線量被ばくに起因する影響に対する疫学的研究の限界を理解すること。防護の量と単位についての多くの混乱が解消されること。放射性核種の摂取に起因する身体におこりうる障害が解明されること。救助者やボランティアが適宜の防護体系で保護されること。危機管理、医療援助、復旧・再生についての明確な勧告が有効なものになっていること。公衆(幼児、子供、妊婦そしてこれから生まれてくる子供たちを含む)の防護水準とその関連事項についての勧告が、一貫性があり、分かりやすいこと。公衆モニタリング施策に関する最新の勧告が有効なものになっていること。受入れ可能な(あるいは容認できる)「汚染」水準が、明確に述べられ、そして定義されていること。放射線事故から派生した深刻な心理的影響を軽減するための術策が編み出されていること。最後に、事故後の放射線防護政策における情報共有促進の失敗について、勧告とあわせて公表し、コミュニケーションの空白を最小にする必要があること。

  私にとって、福島での悲しいでき事にあわれた皆さんと心を通わせる機会を得たことは光栄なことです。

敬具

長瀧 重信
長崎大学名誉教授
(元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)

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