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福島県「県民健康調査」報告 ~その3~

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  福島県立医大が中心となり、東電福島第一原発事故の3か月後から続けられている県民を対象とした健康調査は、今年度から「県民健康管理調査」の「管理」が削除され、名称が「県民健康調査」に変更されました。
  本調査の目的と概要は、平成24年3月14日付けの本コーナーでもご紹介(1)していますが、平成23年度途中から開始された全県民対象の事故後4ヶ月間の外部被ばく線量推計(基本調査)に加えて、甲状腺超音波検査、健康診査、こころの健康度・生活習慣に関する調査、妊産婦に関する調査に関する結果が引続き報告され、長期に渡る県民の健康見守り事業としての基盤づくりが推進されています。
  本コーナーで本調査の途中結果についてご報告(2)してから2年、また今年2月に甲状腺超音波検査の結果をご紹介(3)してから5ヶ月が経過しました。今回は5月19日に福島市で開催された本調査の通算15回目となる検討委員会(4)の内容の中から、多くの方々が不安を抱かれている、子ども達を対象にした甲状腺超音波検査の結果を中心にご報告致します。

子ども達を対象とした甲状腺検査の結果

  平成25年12月21日までの集計データの結果、一次検査の受診者は約28万7千人であり、99.3%についてはA判定の検査結果が通知されています。この中で、全く所見のないA1判定が51.6%、わずかな所見が見出された(5.0mm以下の結節や20.0mm以下ののう胞)A2判定が47.7%でした。このA2判定の結果は、今回、超音波検査により小児甲状腺の大規模なスクリーニングを行うことで初めて明らかになりました。
  今回の検討会では、環境省が福島での検査結果を客観的に検証するために3県(青森、山梨、長崎)で実施した、「甲状腺結節性疾患追跡調査事業」の結果も併せて報告されました。その結果、超音波検査による所見については、福島の子ども達と上記3県の子ども達とでは、同様の頻度であることが明らかにされています(5)。
  一方、B判定(5.1mm以上の結節や20.1mm以上ののう胞)とされた二次検査対象者2,069名(0.7%)が「要医療」と判断されています。多くの専門家は、かつてない大規模な甲状腺超音波検査を行ったことにより、無症状で検診を行わなければ発見されなかった症例が一度に多数見つかったこと(スクリーニング効果)が、比較的高い頻度につながっていると推定しています。
  さらに、小児甲状腺癌の疑いで細胞診という検査を受けた中で、90例の悪性ないし悪性の疑いが報告されました。この中で、実際に手術で確定診断された甲状腺癌は50例(平均年齢は16.9±2.7歳で、平均腫瘍径は14.2±7.4mm)です。また、90名のうち45名から基本調査(事故直後から4ヶ月までの外部被ばく線量推計)の回答が得られ、このうちすでに結果が通知された34名については、最も高かった2.5ミリシーベルト未満が一人、1ミリシーベルト未満が21名(61.8%)、残り12名は解析の途中です。
  検討委員会では、こうした所見や、これまでに明らかになった甲状腺被ばく線量や甲状腺癌の発症年齢、発症時期等を参考にして、放射線被ばくと甲状腺癌発症との因果関係の検討を行っています。本委員会に参加した専門家の見解では、現在の症例や頻度は「原発事故の影響によるものとは考えにくい」との指摘があるものの、まだ全てが解っているわけではないので、くり返し検査を行うことが重要であるなどの指摘がありました。
  一方では、検査結果が蓄積されるにつれ、甲状腺癌そのものに対する「過剰診療」が懸念され始めていますが、スクリーニング効果による発見頻度の増加と、それに対する医学的取組みは、当初から重要な課題でした。この初めての事態に対処するために、より適切な小児甲状腺癌診療ガイドラインの策定が不可欠となります。
  以上のように、専門的知見を背景としてより高度に議論を深め、適切な評価を行うために、本委員会に「甲状腺検査評価部会」が設置され、さらなる検討が進められています。今後も科学的な知見を蓄積し、それをもとに、予断に捉われることなく甲状腺がんの原因の追求と最善の対策を構築していく必要があります。

甲状腺検査の課題

  子ども達のみならず、福島県全県民を対象とした上記の基本調査の結果からも、チェルノブイリとは異なり外部被ばく線量が極めて低いことが明らかにされ、「県民健康調査の継続が本当に必要なのか」と言う声も聞かれるようになりました。しかし、今回の原発事故による甲状腺への影響が不安視される原因は、基本調査から推定される外部被ばくでだけはなく、初期の放射性ヨウ素による内部被ばくの問題です。また、最も影響を受けやすい子ども達に焦点を絞る対応策は、医学的にも優先される事項でもあります。
  この点では、最近の「原子放射線の影響に関する国連科学委員会2013年報告(UNSCEAR 2013 Report)」でも、仮に「甲状腺内部被ばく線量が高い乳幼児や小児がいる」場合には、甲状腺がんリスクの大きな増加が示唆されています(6)。
  リスクがあるかもしれない一部の限られた対象者だけでなく、県下のすべての子ども達を対象にした甲状腺超音波検査に自主的に参加してもらうのは、当然限界があります。この重要な課題については、「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」でも幅広く議論が継続されています(7)。

精神的ストレス等の課題

  事故から3年以上経過しても、未だ避難生活を余儀なくされ、帰還・帰村の見通しさえ立たない県民が多くおられることは、大きな問題です。一般の災害においても同様ですが、負傷や身体的な急性期の医療問題への対応以外に、日常生活が破壊されたことによる精神的ストレスが引き起こす、種々の慢性的な健康問題に対処する必要があります。
  特に原発災害においては、医学や科学の領域に留まらず、政治・経済・社会的な問題として長年にわたって議論されており、放射線が単なる物理量以上の災害要因としての性格を持つことが明らかにされています。
  さらに福島県では、環境中の放射能汚染そのものにストレスを感じる日常生活を余儀なくされています。すでに今回の県民健康調査の結果では、甲状腺の有所見の割合という医学的問題のみならず、放射線の影響では説明できない健康影響が明らかになりつつあります。すなわち、避難生活の長期化などにともなって発生する飲酒量の増加、運動不足などの生活習慣の悪化や、肥満、高血圧、及び糖代謝の異常などのさまざまな疾病です。特に、小児の体調変化は重要な問題であり、早期診断、早期解決が求められます。今後、詳細な検討を続け、これらの問題点を早急に解決する必要があります。

健康見守り事業の意義

  原発災害という特殊性を考慮したとき、福島県の県民健康調査事業は単に調査に留まらず、その充実した取組が予防医療の観点からもより大切になります。本活動が県民に受入れられ、県民自身も積極的に関与しながら健康増進に取り組み、本来の目的である「健康見守り事業」として長期にわたり継続される仕組みづくりが重要となります。
  なかでも、乳幼児期から小児、青年期を対象としている甲状腺検査の継続とそのあり方は、総合的な見地からも優先順位が高い重要な課題と言えます。事故当時およそ0歳から18歳だった約36万人の初期の対象者に、事故の年度に生まれた子どもたちも加えた約38万人が対象とされ、すでに3年間の先行調査を一度受診したことになります(受診率約80%)。
  今後の本格調査の中で、疫学調査や医学的な課題をどう克服するかに加えて、子ども達のこころや生活環境の変化に伴う健康問題をどのようにフォローするのかなど、検討委員会の議論を注視しつつ、具体的な改善策やその実施についてもオールジャパンの協力体制で応援したいと思います。

山下俊一
福島県立医科大学副学長、
長崎大学理事・副学長(福島復興担当)

神谷研二
福島県立医科大学副学長、
広島大学副学長(復興支援・被ばく医療担当)


参考文献

  1. 第22回コメント 福島県「県民健康管理調査」の、今とこれから
  2. 第26回コメント 福島県「県民健康管理調査」報告 ~その2~
  3. 第62回コメント 福島県における甲状腺超音波検査について
  4. 第15回福島県「県民健康調査」検討委員会資料
  5. Hayashida N. et al. Thyroid Ultrasound Findings in Children from Three Japanese Prefectures: aomori, yamanashi and nagasaki. PLoS One 2013 (8)12: e83220. DOI: 10.1371/journal.pone.0083220
  6. UNSCEAR2013年報告書(日本語訳)第I巻国連総会報告書.科学的附属書A:2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響
  7. 東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議
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