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第3回福島国際専門家会議
「放射線と健康リスクを超えて~復興とレジリエンスに向けて~」

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会議の概要

 平成26年9月8、9日の両日、福島市内のホテルにおいて、日本財団主催、笹川記念保健協力財団、福島県立医科大学の共催、長崎大学の協力によって、第3回目となる福島国際専門家会議 が開催されました。今回の会議では、原発事故から 3年半が経過しようとする中、福島県内の放射線状況と県民健康調査の進捗状況の詳細について、それぞれエビデンスに基づく発表が行われました。そして国内外の科学者らによる見解に加えて、被災者と被災者の支援にあたっている国内外の専門家から、現場に立脚した報告がなされました。

 報告の概要としては、福島県立医科大学および他の日本人専門家、そしてWHO(世界保健機関)、IAEA(国際原子力機関)、UNSCEAR(国連放射線科学委員会)、ICRP(国際放射線防護委員会)といった国際機関からのすべての報告において、「原発事故による被災住民らの被ばくレベルは、放射線の健康影響が認められない程に低く、また将来もその可能性は低い」ということで一致していました(会議内容は放射線医学県民健康管理センターの英語ホームページ にも公開されています)()。

 にも関わらず、被災住民の方々は、現在の放射線状況に関する懸念と不安を抱き続けています。その根本には、放射線が存在するという日常生活への不安があります。そして避難された方にとっては、避難生活の長期化や、政府の復興施策の実施現場における種々の摩擦と軋轢などから生じる精神・心理的負担があります。そして、そうした負担に由来する二次的な身体影響も大きな問題であり、多くの人々にとって、放射線は対抗しえないものと捉えられている状況が明らかとなりました。家族の崩壊や地域の分断という深刻な問題も提起されました。

 そうした状況を受けとめ、従来の放射線防護のあり方を超えて、住民の尊厳の回復、自立に向けた支援を行うこと、そして地域の連帯を強化することが長期間にわたり重要であると認識され、専門家も住民の自助努力を積極的に後押しする体制の構築を目指すことになりました。

政府への提言書

 最終日の午後には、将来に向けた総括討論が行なわれ、それらの結果を踏まえて、政府への提言書が取りまとめられています()。その根幹にあるのは、現場の実情に即した課題提示とその解決策に向けた提案です。

 福島県における悲劇は、避難を余儀なくされた方々が、長期にわたって故郷を離れるという困難な生活を強いられていることです。そして国策としての原子力利用が甚大な事故となり、被災者のみならず、多くの国民が、原子力、そして放射線に対して、強い不安と不信感を持つにいたったことです。

 そうした現実を踏まえ、今後も、エビデンス重視の政策や放射線防護の基準遵守の考え方は前提となります。さらには、避難住民の自主的な判断を尊重しつつ、帰還の意志の如何にかかわらずその支援を行い、また福島において低線量放射線状況下で生活する人々に対しては、放射線量の意味を正しくご理解頂くための包括的な復興支援を継続するよう求めました。福島の方々が、健康的で安定した生活を送る基盤を構築できるよう、全力をあげて取組む必要性があることが再認識されました。

これまでの経緯

 今回で3回目を数えるこの会議、きっかけとなったのは、2011年9月に開催された日本財団主催による第1回福島国際専門家会議「放射線と健康リスク」 でした()。事故から半年後でしたが、国内のみならず、WHO、UNSCEAR、IAEA、 ICRPなどからも多くの専門家が、福島県立医科大学へ初めて招聘されました。

 災害に強い持続的社会の拠点として、そして原発事故からの復興を目指す世界的な拠点として、新たな使命を与えられた福島県立医科大学が動き出した、まさに絶妙のタイミングでの開催でした。事故後の混乱と混迷が続く中で、国内外の過去の教訓を学び、いち早く被災者への対応策が協議されました。

 第1回会議の提言では、ちょうど福島県民に対する健康調査が開始された直後でもあり、その重要性と妥当性が評価されました。また事業推進支援の為のタスクフォースを設置する提案の他に、環境放射能レベルの継続的モニタリングと定期的な評価、放射線リスクの住民への説明と理解促進の必要性などが盛り込まれました。その一年半後、2013年2月に福島県立医科大学主催による第2回福島国際専門家会議が開催されています()。本コメント欄でもその内容の概要を紹介しています()ので、ぜひご覧ください。

福島県立医科大学の使命と世界的な役割

 福島県立医科大学は、原発事故に伴う県民の健康見守り事業として「県民健康調査事業 」が実施しています。福島県が公表しているこれまでの調査結果()とは別に、大学の放射線医学県民健康管理センターのホームページ 上でも関連情報が公開されています()。

 世界の専門家や国際機関もその調査結果に注目し、現場の実情に即した評価が行われています。すでに、WHOやICRPが、福島原発事故後の予備的線量評価()と健康リスク評価(10)、そして放射線防護の取組み(11)についてそれぞれ報告しています。最近ではUNSCEARが、科学的事実に基づく放射線リスク評価を公表しています(12)。また、IAEAでも福島原発事故の包括的なレポートを現在策定中です。

山下俊一
福島県立医科大学副学長
長崎大学理事・副学長(福島復興支援担当)
日本学術会議会員






参考文献

  1. (1)“8th -9th Sep 2014, 3rd Int'l Expert Symposium in Fukushima convened” Fukushima Radiation and Health. (福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター ホームページ内)
  2. (2)「第3回福島国際専門家会議 放射線と健康リスクを超えて~復興とレジリエンスに向けて~ 」提言書
  3. (3)11th -12th Sep 2011, 1st International Expert Symposium in Fukushima.
    (福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター ホームページ内)
  4. (4)Special section: Selected articles from the International Expert Symposium in Fukushima: Radiation and Health Risks (11-12 September 2011), Journal of Radiological Protection 32(1), 2012
  5. (5)25th-27th Feb, 2013, International Academic Conference on Radiation Health Risk Management in Fukushima
  6. (6)第37回コメント:第2回「放射線健康リスク管理福島国際学術会議」のご報告
  7. (7)福島県 県民健康調査課
  8. (8)福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター
  9. (9)Preliminary dose estimation from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami. WHO, 2012
  10. (10)Health risk assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan earthquake and tsunami, based on a preliminary dose estimation. WHO, 2013
  11. (11)Gonzalez AJ, Akashi M, Boice Jr JD, Chino M, Homma T, Ishigure N, Kai M, Kusumi S, Lee JK, Menzel HG, Niwa O, Sakai K, Weiss W, Yamashita S, Yonekura Y, Radiological protection issues arising during and after the Fukushima nuclear reactor accident. J Radiol Prot 33(3): 497-571, 2013
  12. (12)UNSCEAR 2013 Report, Levels and effects of radiation exposure due to the nuclear accident after the 2011 great east-Japan earthquake and tsunami. United Nations, New York, 2014
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