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首相官邸 Prime Minister of Japan and His Cabinet
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低線量被ばくのリスク管理
(ワーキンググループ報告書より)

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平成24年2月21日

 今、多くの方が漠然とした不安を抱いておられる、低線量被ばく。そのリスク管理を検討するために、昨年11~12月、内閣官房に「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」が組織されました。
 このワーキンググループでは、低線量被ばくのリスクやこれまでの対策の評価について、国内の各分野の専門家(国の対策に疑問を提起している方も含め)、福島県自治体の首長、また国際的に活躍されている海外の専門家などをお招きして幅広くご意見を伺い、最終的には国際機関がまとめた最新の科学的知見をも踏まえて報告書を作成いたしました。また、会議には細野原発担当大臣をはじめ、政府関係者、専門家、政治家の方々も参加されました。
 (3)で後述しますが、今必要とされているのは、国民に対する公正な情報提供です。そこで一連の会議は全て、リアルタイムで動画を配信するオープンな形式で行いました。討論の模様は、今もノーカットの録画 でご覧いただけます。また、12月22日に細野大臣に提出した最終的な報告書も、こちら に全文を公開しています。

与えられた課題は、次の3点について、科学的な見地から見解をまとめるということでした。
(1) 年間20ミリシーベルトという低線量被ばくの健康影響
(2) 子どもや妊婦への配慮事項
(3) リスクコミュニケーションの在り方
まとまった専門家の見解は、次の通りです。

(1)年間20ミリシーベルトという低線量被ばくの健康影響

 [100ミリシーベルト以下の低線量被ばく]では、放射線による発がんリスクの増加は、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、「放射線によって発がんリスクが明らかに増加すること」を証明するのは、難しい。これは、国際的な合意に基づく科学的知見である。
 しかしながら、《科学》的には証明困難であっても、《放射線防護》の観点に立てば、たとえ[100ミリシーベルト以下の低線量被ばく]であっても、「発がんリスクは、被ばく線量に対して直線的に増加する」という安全サイドに立った仮定に基づいて、被ばくによるリスクを低減するための措置を採用すべきである。
 以上を前提として、現在の避難指示の基準である[年間20ミリシーベルトの被ばく]による健康リスクについて検討した結果は、次の通りである。

  • この[年間20ミリシーベルトの被ばく]による健康リスクは、他の発がん要因によるリスクと比べても、十分に低い水準である。
  • 《放射線防護》の観点からは、生活圏を中心とした除染や、食品の安全管理等の措置を継続して実施すべきであるが、これらの措置を講じれば、リスクを十分に回避できる水準である、と評価できる。
  • また、放射線防護措置を実施するに当たっては、その措置を採用することによって生じる別のリスク(避難による日常生活の中断、ストレス、屋外活動を避けることによる運動不足、等)と様々な側面での影響の大きさを比較した上で、住民の皆さんにとって何が最善か、どのような防護措置をとるべきかを《政策》的に検討すべきである。

 ―――こうしたことから、年間20ミリシーベルトという数値は、「今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートライン」としては、適切であると考えられる。
 なお、現在の避難区域を設定する際には、実際には徐々に減ってゆく放射能の「自然減衰」を敢えて考慮に入れない(=減らないことにして計算する)など、安全側に立って被ばく線量の推計を行っている。したがって、実際の被ばく線量は、年間20ミリシーベルトを平均的に大きく下回る、と評価できる。

(2)子どもや妊婦への配慮事項

 子ども・妊婦の被ばくによる発がんリスクについても、[100 ミリシーベルト以下の低線量被ばく]では、成人の場合と同様、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい。しかし一方で、[100ミリシーベルトを超える高線量被ばく]では、思春期までの子どもは、成人よりも放射線による発がんのリスクが高い。
 こうしたことから、住民の大きな不安を考慮すると、子ども・妊婦に対しては、たとえ100ミリシーベルト以下の低線量の被ばくであっても、「優先的に放射線防護のための措置をとる」ことは適切である。ただし、子どもは、「放射線を避けることに伴うストレス等による影響」についても、大人よりも感受性が高いと考えられる。このため、真に子ども達のことを考えた、きめ細かな対応策を実施することが重要である。

(3)リスクコミュニケーションの在り方

 放射線防護のための数値については、《科学的に証明されたもの》か、《政策としてのもの》かを、理解していただくことが重要である。チェルノブイリでの経験を参考にすると、長期的かつ効果的な放射線防護の取組を実施するためには、住民が主体的に参加することが不可欠である。このため、政府、専門家が住民の目線に立って、確かな科学的事実に基づき、わかりやすく、透明性をもって情報を提供するリスクコミュニケーションが必要である。

今後の対策―――5つの提言

 また、今後の対策に関しては、ワーキンググループとして次の5つの提言をまとめて、政府に提出いたしました。

(1) 除染には優先順位をつけ、例えば「まずは2年後に年間10ミリシーベルトまで」、その目標が達成されたのち、「次の段階として年間5ミリシーベルトまで」、というように漸進的に“参考レベル”を設定しながら進めてゆくこと。
(2) 子どもの生活環境の除染を優先すること。避難区域内の学校等を再開する前に、校庭・園庭の空間線量率が毎時1マイクロシーベルト以上の学校等は、それ未満とする。さらに、通学路や公園など子どもの生活圏についても徹底した除染を行い、長期的に追加被ばく線量を年間1ミリシーベルト以下とすることを目指す。
(3) 子どもの食品には特に配慮し、適切な基準の設定、食品の放射能測定器の地域への配備を進めること。
(4) 専門家が住民と継続的に対話を行えるようにすることと、地域に密着した専門家の育成を行うこと。
(5) 福島県が今回の原発事故前に策定した「がん対策推進計画」(平成20年3月)においては、がんの年齢調整死亡率(75歳未満)を今後10年間で20%減らすことを目指している。この目標の着実な達成を図るべく、各種対策を実行する。さらに、現行の計画に基づく取組の進捗状況を点検した上で新たな目標を設定し、例えば20年後を目途に、《がん死亡率が全国で最も低い県》を目指すこと。

安心に寄与し、復興を目指す助けとなることを願って

これらの提言は、

  • 過去の原子力災害や放射線事故における経験の集積や、国際機関により取りまとめられた科学的事実や合意事項
  • 「科学的に証明されていない低線量被ばく領域は、『低線量被ばくでも影響がある』と仮定して対策を講じる」という、国際放射線防護委員会も認める基本的な考え方
  • 福島県の妊婦と子ども約3万6000人の、震災直後からの線量評価結果(福島の現状)

―――等に基づくものです。

 今後、この提言が、個人線量測定に基づく健康影響調査や食品の放射能検査、除染活動など、住民の方々の安心に寄与し、福島の復興を目指した具体的な生活設計の助けとなることを、願ってやみません。

 ワーキンググループでの議論に参加していただいた全ての方々、この取り組みに関し海外から意見を寄せていただいた専門家の皆様、また、現在も原子力発電所の事故収束に尽力いただいている方々に、感謝の意を表します。


(長瀧 重信 長崎大学名誉教授、
 元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)

(前川 和彦 東京大学名誉教授、
(独)放射線医学総合研究所緊急被ばく医療ネットワーク会議委員長、放射線事故医療研究会代表幹事))

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