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大学による福島県市町村の復興支援

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  原発事故から2年半あまりが経過しましたが、福島に住む人々は今なお、放射線・放射能に対する不安と闘っています。不安なとき、住民の方々にとって最も頼りになるのは、近所の人々や同じ地域の住民であり、信頼できるのは属している自治体です。しかし、話が「放射線・放射能」ということになると、専門的な知識を持ち合わせている人に頼るほかありません。そこで頼りになるのが、放射線・放射能に詳しい専門家がいる大学です。
  ここでは、福島県内の自治体と大学とが協定を結び、大学が科学的な側面から自治体を継続してお手伝いしているいくつかの事例をご紹介します。

長崎大学×川内村/広島大学×南相馬市

  すでにこのコーナーでもご紹介しましたが、原爆被災地の大学として被爆者医療、放射線の健康影響研究などを推進してきた長崎大学と広島大学は、ともに福島県立医科大学と協定を結んで、福島県における県民の健康管理や、被ばく医療体制の構築など、復興に向けた活動を続けています。
  さらに両大学は、市町村単位でもそれぞれ川内村、南相馬市と包括連携協定を結び、復興に向けた取り組みを科学的な側面から支援し続けています()。

弘前大学×浪江町

  青森県の弘前大学は、原発事故直後の2011年4月から浪江町に入り、放射性ヨウ素による住民の甲状腺被ばくの線量推定を行ってきました。その後2011年9月に浪江町と協定を結び、事故の前年より大学内に設置されていた「被ばく医療総合研究所」が中心となり、「まちの再生・復興」「町民の安全・安心」「科学的知見の集積」の3つを柱として、浪江町を支援しています。
  浪江町では、町の一部が高線量地帯になってしまったことから、町民の放射線被ばくに対する不安が増大しています。そこで弘前大学では特に、原発事故後早期における町民の被ばく状況の実態解明に、重点的に取り組んでいます。現在では、ホールボディカウンター()を使った放射性セシウムの体内残留量の計測から、甲状腺に取り込んだ放射性ヨウ素の量を推定する手法などを確立しています。
  今年7月には、町との連携をさらに強化するため、役場内に弘前大学浪江町復興支援室を設置し、様々なニーズに迅速に対応する体制を整えています。

近畿大学×川俣町

  大阪府の近畿大学は、私立大学として唯一、研究用原子炉を備えた原子力研究所を有し、原子力研究や放射線防護研究をリードしてきた大学の一つです。
  その原子力研究所に所属するある教員は、2011年3月の原発事故直後から、政府のアドバイザーとして各地で説明にあたっていました。その過程で川俣町を訪れた際、住民の方々から、山木屋小学校校庭の放射線量率のデータについて、さらには町民、とりわけ子どもの健康について相談を受け、専門家として継続的に支援する必要があると考えました。
  東京電力福島第一原子力発電所から40km離れている川俣町では、事故前には原発事故によって避難などの影響が出るとは予想されていなかったため、放射線の人体への影響や街の将来についての町民の方々の不安は深刻なものだったのです。中でも、浪江町に接した山木屋地区はとりわけ線量が高い状況でした。一部の住民は、今なお避難生活を続けています。現在では、同地区には居住制限区域と避難指示解除準備区域があり、日中の立ち入りは認められています。
  話を戻しますが、その後この教員は川俣町の現状について大学、原子力研究所に伝え、これを受けて原子力研究所の他のメンバーが2011年4月に川俣町に赴き、復興活動に乗り出しました。そして 6月下旬には、近畿大学は川俣町から、正式に震災復興アドバイザーとして委託を受けるに至りました。
  それ以来、子どもたちの健康を守りたいという町の方々の切実な願いに応えるべく、個人線量計を用いて子ども一人ひとりの被ばく線量を測定し、その推移を正確に記録し、健康相談を実施したり線量低減のための助言を行ったりして、継続的な支援事業を続けています。個人線量計の回収率がほぼ100%であるという事実は、古川町長をはじめ、教育委員会や学校関係者、父兄の方々の全面的な協力を得ていることを物語っています。
  そして2012年には、このような川俣町への支援の枠組みをさらに大学全体に拡大するため、「“オール近大”川俣町復興支援プロジェクト」を立ち上げ、今年5月からその活動を本格始動させています。
  これは、総合大学である強みを生かし、医学部、理工学部、生物理工学部、農学部から経営学部、文芸学部や法学部まで、全面的に川俣町の復興を支援するプロジェクトです。
  具体的には、空間線量の測定、土壌や植物の放射性物質濃度の測定、効率的な除染作業の模索、健康・メンタルのケア、新しい農作物で町のブランド力を高める工夫、さらには町おこしのためのマーケティングやデザインなど、さまざまな課題に大学全体で取組み、注目されています。
  近畿大学では、この活動が復興のモデルケースとして他の地域にも波及し、川俣町のみならず、福島県全県の復興に寄与できるものと考えています。

大学の使命

  ここまで、長崎大学、広島大学、弘前大学、近畿大学の活動をご紹介しましたが、いずれのケースも大学と自治体とがしっかりと信頼関係を築き、町民の信頼を得て、町の復興をともに推し進めています。
  大学には、放射線・放射能に詳しい多くの人材がいて、様々な放射線測定装置が備わっています。ここでご紹介した以外にも、現在多くの大学が福島県の住民の安全・安心に貢献しています。
  大学人は、今こそ、これまで研究してきた知識を、復興のため、社会のために役立てる時です。積極的に貢献し、福島県の方々に、そして社会に、その価値を還元する時です。そして同時に、さまざまな支援活動を通して多くの事を学び、さらに社会に役立つ研究を進めていくことが、大学人の使命だと考えます。

遠藤 啓吾
京都医療科学大学 学長
群馬大学名誉教授
元(社)日本医学放射線学会理事長


参考資料

  1. (1) 第53回コメント「川内村を訪れて~進みつつある生活再建の営み~」
  2. (2) 第54回コメント「南相馬市の手探りの挑戦~まちづくり・健康管理への
    積極的な市民参画~」
  3. (3) 第10回コメント「内部被ばくとホールボディカウンター」
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