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福島県「県民健康調査」報告 ~その4~

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 福島県では原発事故以後、困難な状況の中で地道な努力が積み重ねられています。平成26年12月25日、第17回目となる県民健康調査検討会が開催されました(1)。すでに本コーナーでも、本調査の目的と概要をはじめ(2)、これまでの検討会の報告内容についても随時お伝えしてきました(34)。5年目を迎えるにあたり、本17回検討会の発表内容をご紹介するとともに、今後の課題を考えてみたいと思います。

基本調査

 郵送された問診票に沿って、事故直後から4ヶ月間の行動様式などをご回答頂くことにより、外部被ばく線量推計の結果が定期的に報告されています。平成26年10月31日時点で、対象者205万人のうち約55万人が回答しました(回答率26.9%)。そのうち、推計期間が4ヶ月未満の方や放射線業務従事経験者を除いた約44万人の推計結果は、福島県北地区の約87%、県中地区の約92%以上の方が、2mSv(ミリシーベルト)未満となっています。また、県南地区の約88%、南会津地区の約99%以上、相双地区の約78%、いわき地区の約99%以上の方が、1mSv(ミリシーベルト)未満となっています。
 これらの数値はこれまで同様、健康影響を与えるほどの外部被ばく線量ではありません。さらに、事故後5ヶ月目以降に各市町村が行なっているガラスバッジ(個人線量計)や個人線量測定の結果と合わせても、放射線による健康影響は、以前も現在も考えにくいと評価されます。
 事故から4年が経過し、当時の記憶も薄れていく中で、県外への避難生活が長引く方への対応も含めて、回答率向上に向けた地道な活動が継続されています。

子どもを対象とする甲状腺検査

 事故後初期の放射性ヨウ素による内部被ばく線量は不明でしたが、迅速な食品規制等が行われたことにより、その後の検査から、「健康影響は無い」と考えられています(5)。事故後半年目からは、事故当時おおよそ18歳以下の福島県民全員を対象とした、前例のない大規模な甲状腺超音波検査が、全県下で続けられています。
 先行検査として平成25年度までの3年間に行った、約30万人分の解析結果の暫定版が報告されました。そのうち2,240名が二次検査の対象者となり、さらに108名に対して悪性及び悪性疑いと診断されています。108人の内訳を年度別、市町村別に見ると、平成23年度対象者41,810名(国が指定した避難区域等の13市町村)の一次検査受診者数の中で14名(0.03%)、平成24年度は県中地方の12市町村で139,341名中56名(0.04%)、平成25年度はいわき市、県南、会津地方など24市町村で115,435名中38名(0.03%)となり、合計で296,586名中108名(0.04%)でした。上記の通り、年度別、地域別の差がなく、また被ばく線量も極めて低く、この先行検査によって発見された甲状腺癌の頻度が、福島県のベースラインと考えられます。
 一方、先行検査終了後に平成26年度から、同じ対象者に加えて、被災時胎児であった者なども含めて二巡目となる本格調査が開始されています。すでに8万2千人が一次検査を受診され、そのうち二次検査対象者が457名であり、甲状腺癌疑いが4名新たに診断されています(0.005%)。暫定データですが、一巡目と比較してその発見頻度は約8分の1となっています。しかし、同じ母集団からの新たな発見であり、いくつかの問題点を示しています。すなわち、検査間隔2年間という短期間で新たに甲状腺癌が発見されたことから、医学的な常識に照らせば、前回の見落としや検出困難な画像所見であったのではないかということ。さらに、ちょうど思春期前後という、甲状腺癌の発症において特異的なタイミング(すなわち癌の芽が出て育つ時期)に検査をしているため、放射線の影響とは関係なく、ある程度の頻度で今後も甲状腺癌が発見されるのではないか、という可能性です。いずれにしても二巡目の検査が完了した後の詳細な解析が必要であり、継続した本格検査が重要となります。
 先行検査では初めて、高感度の超音波検査機器と標準化された診断基準が検査に導入され、精度の高い検査が開始されました。その結果、単なるスクリーニング効果以上に(6)、良い意味合いでの早期発見の増加が、ベースラインとなる頻度を底上げしていると考えられます。
 いずれにしても、小児甲状腺癌の早期発見と早期治療については、適切な医療行為が求められます。すでに、検討会の中に「甲状腺検査評価部会」が設けられ、過剰診療や今後の調査のあり方についても答申が出されるものと期待されます。

健康診査

 本診査の対象者は、政府の避難指示に基づき避難を余儀なくされた約21万人ですが、そのうち16歳以上の対象者については、各市町村等で行われている既存の健診と本診査を、まとめて一度で受診できるように工夫して実施されています。また、受診できない方々に対してもきめ細かな県内体制が組まれています。
 15歳以下の小児に対しては、小児科医の協力の下、県内104の医療機関において検査が実施されている一方、全国に及ぶ避難者に対しては、県外951の医療機関の協力の下で平成23年度から継続的に行なわれています。
 年度ごとに受診率が30%から23%へと低下していることから、関心の低さの表れではないかと懸念されています。詳細な検査結果は省略しますが、年度ごとの結果を比較すると慢性生活習慣病の傾向は続いていますので、健康的な生活に向けた改善策が指導される必要があります。

こころの健康度・生活習慣に関する調査

 平成26年度は現在調査中で、平成25年度分の結果暫定版が報告されました。それによると、「子どもの情緒と行動の不安定性」に関するアンケート調査結果から、4~6歳と小学生への影響が高く、女児・女子よりも男児・男子に基準点以上の割合が高い傾向が認められました。また、睡眠や運動に関する調査からも、子どもの不活発な生活状況が示唆されました。どのような対応や改善策が提供されるべきかも含めて、市町村の保健所や学校などとの連携が求められるようです。
 一方、成人調査の解析結果からは、全般的な精神健康度とトラウマ反応は、いずれも年度ごとに改善傾向にあり、初期の大変厳しい状況からの回復が認められています。しかし、子どもも成人も、本調査に対する有効回答数がこの3年間で3分の2程度に減少していることは、今後の課題です。

妊産婦に関する調査

 全県下において新たに母子健康手帳を交付された妊産婦を対象に、毎年アンケート調査が行なわれています。今回は平成25年度の調査結果が報告されました。その結果、流産や早産の割合も事故直後の年から3年間ほぼ一定であり、先天奇形・異常の発生率(2.35%)についても他県と差異がなく(3~5%)、福島県で安心して出産ができる状況だと考えられます。家庭や育児の状況、そして次回の妊娠希望などに関する電話相談内容からも、妊産婦の放射能や放射線に対する心配や不安は明らかに改善していることが報告されました。
 ただし、事故後にうつ傾向ありと判定された母親の割合(27.1%)は、平成25年度に24.5%と漸減傾向にあるものの依然として比較的高く、引続ききめ細かな対応が求められています。

 以上、県民健康調査検討会での報告内容については、委員の間で真摯な議論が継続されています。同時に環境省が取りまとめた「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議‐中間取りまとめ」(平成26年12月)(7)も参考に、健康見守り事業の着実な推進が期待されます。

山下俊一
福島県立医科大学副学長、
長崎大学理事・副学長(福島復興支援担当)
日本学術会議会員







参考文献

  1. 第17 回福島県「県民健康調査」検討委員会(平成26年12月25日開催)
  2. 第二十二回 福島県「県民健康管理調査」の、今とこれから
  3. 第二十六回 福島県「県民健康管理調査」報告 ~その2~
  4. 第六十七回 福島県「県民健康調査」報告 ~その3~
  5. 第三十九回 福島における「内部被ばく」の現況について~最近の調査から~
  6. 第六十二回 福島県における小児甲状腺超音波検査について
  7. 「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」中間取りまとめ(平成26年12月22日公表)
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